今日、「Story」のページを追加しました^^
ものがたりのある作品を紹介しています。
今までは自分の作品にものがたりをつけたことがなかったのですが、昨年からはじめました。
一枚の絵、一枚の画面に入れられる時間と世界が限られているので、これは何枚か描くしかないと思ったのがはじまりです。
私の場合、構想が場面や映像に限らず、言葉で降りてくることもあります。
特に通勤時間や電車に乗っている時が多いんですけど、静かな考えの泉に一粒の雫が落ちてくるように、あるときは大雨のようにザーザーやってきます。
それは私が日頃考えていた事の答えだったり、もやっとした見えないものが言葉にコーティングされてやってくるような、あるいはまったく予想もしなかった流れ弾をくらうような、とにかく色々な感じです。
このページでは「逃げる家」ができた背景というか、軸みたいなところを話したいと思います。
「逃げる家」
逃げる家は、昨年の晩秋、会社から自宅へ帰る電車の中で突然「家に足が生えているよ!」と降ってきた言葉から作った作品です。
家から足が生えます。ちょっとおしりがはみ出しているのがポイントです。
そして、家は雨雲から逃げます。備え付けの柵も破り、水道管もぶっちぎって、家具は走りながら落としていき、住宅街を離れ、未開の地へひたすら走ります。
施主が帰ってきて、びっくりします。家が逃げたことに。しかし、実はその家が雨風に、嵐にどうしようもなくストレスを感じて逃げたがっていることを主人は知っていました。主人は家が辛くならないようにもっと丈夫にしたり、工事をしようとも検討していました。
でも、なにも言わずに逃げてしまったので、どうしようかな、次に逃げた家よりも100倍いい家を建ててやる!と施主が考えているのです。
最初、このものがたりを外側から見たら、なんか滑稽で、シュールで、尻隠さず逃走する家が面白すぎると思ったのですが、これが現実問題だったら途方に暮れます。
「逃げる家」はもし自分が災害で家を失ったら・・・家の返済が出来ず手放さなければならない・・・等そういう話ではありません。
家ってすごいんです。
価格はもちろんですが、家族よりも、恋人よりも、自分の人生に深く関係する大切な相棒です。
雨風、嵐、吹雪、怖い音などから自分を守ってくれ、寝食を共にし、誰にも見せたくない自分の全てを、まるごとじっと守ってくれる存在です。
しかし、ある日当たり前のように自分を守ってくれる家に足が生えて自分から消えたら・・・・というのは
自分にとって大切な相棒のような人が、ある日突然消えたということを示唆しています。
肉体の死別ではありません。
関係の死別です。
だから地震による倒壊ではなく、火災で全焼というものではありません。「逃げる家」なのです。
自分に近しい人が逃げるにはただで逃げることはしません。
お金、人間関係、仕事、本当の住む場所、将来の希望、平和な秩序など、色んな大切なものまで一緒に消えます。
消えた人から逃げられた人の被害の大小の違いはあると思いますが、信頼していた相手に逃げられた時、どれほど大変で、悔しくて、死にたくなる思いをするのか、逃げる人は振り返ることはできません。
自分が背負いきれない問題から逃げるのに必死ですから。
というのが逃げる家という作品の背景、軸になっています。
私は正直、人によっては不快や誤解を生みそうなテーマの「逃げる家」を発表するのを迷いましたが・・・。いいや!出してしまえ!と思って現在個展で展示しております。
実物は金箔と岩絵具がギラギラしていて、とてもゴージャスで可愛い作品です。
では家が逃げないためにはどうしたらよかったのか。
その答えは見る人によって無限の答えがあると思います^^